ココロの皮むき

産業カウンセラーが学んできたことを書くブログ

アドラー心理学が「トラウマは存在しない」とする理由について調べてみた

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アドラーを有名にした『嫌われる勇気』にも「トラウマは、存在しない」として登場する。
こんにちは。どいつよしです。
 
 
アドラー心理学が一気に世に知られるきっかけになった本『岸見一郎著 /嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』。
 
 
アドラー心理学「嫌われる勇気」は、嫌われる(かもしれない)恐怖にあらがうこと!?』で書いたように、そのタイトルの衝撃さゆえに、「嫌われる勇気」という言葉だけが独り歩きをしてしまい、誤解されて広まっていったということもありました。
 
 
そして、「嫌われる勇気」と同じくらい、社会に衝撃と混乱を巻き起こしたのが、
 
 
「トラウマは存在しない」
 
 
です。
 
 
僕も乳児院で働いている時に、幼少期に受けた虐待によるトラウマが心身の発達や問題行動等に影響する、ということを学んでいたので、アドラー心理学に触れて「トラウマは存在しない」と言われた時には、パニックになりました。
 
 
パニックになったのは僕だけはなく、『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教えのブームが続いていた時に開かれた産業カウンセラーの全国大会においても、「アドラー心理学では[トラウマはない]と言っているが、先生はどう思いますか?」と講師に質問をする人がいたほどです。
 
 
アドラー心理学が広く知れ渡った今でも、「トラウマは存在しない」について正しく理解している人はそれほど多くないのではないかと思います。
 
 
言葉だけを知って、幼少期に受けた虐待によるトラウマや大災害に遭って命を落としそうになったことによるトラウマなどで、今もなおPTSDで苦しい生活を強いられている人に、
 
 
「あなた、トラウマなんてね、存在しないのよ!元気出しなさいよ!」
 
 
と言って励まそうとするとかえって相手を傷つけてしまいかねません。
 
 
特に、僕も含めて対人援助の仕事をする人は、トラウマという言葉の扱いに、気をつける必要があります。
 
 
そこで、「トラウマは存在しない」とはどういう理由でそうなったのか?という思いが強くなったので、『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』を含む岸見一郎さんの著書、出演したテレビ番組、岸見一郎さん以外のアドラー研究者の著書を振り返ってわかったことを今回はシェアしたいと思います。
 
 

そもそもトラウマってなに?

トラウマという言葉は、私たちの日常会話においても、「あの経験がトラウマになって〜」とか「トラウマが原因で〜」というようによく使われます。
 
 
では、そもそもトラウマとはなんなのでしょうか。国立医療研究センターの『子どものトラウマ診療ガイドライン』を参考にして確認していくことにします。
 
 
トラウマとは、個人が持っている対処法では、対処することができないような圧倒的な体験をすることによって被る、著しい心理的ストレス(心的外傷)のこと。
 
 
トラウマの原因となる出来事には、
 
 
〇 戦争・人為災害・自然災害およびそれに関連した身体的外傷
 
〇 子どもの虐待
 
〇 暴力や犯罪被害:通り魔・誘拐・監禁・リンチ・暴力の目撃など
 
〇 交通事故:自動車・鉄道・飛行機事故など
 
〇 レイプなどの性被害・年齢不相応な性的体験への曝露 など
 
〇 重い病気・やけど・骨髄移植 など
 
〇 家族や友人の死の直接的な体験、その他の喪失体験 など
 
 
が、あります。
 
 
トラウマを体験した子どもは、さまざまなトラウマ反応を示します。トラウマ反応の代表例としては、
 
 
〇 手や足が動かなくなる。意識を失って倒れる。
 
〇過度の緊張が続く。眠れない。些細な物音に驚愕する。
 
〇怖い体験を思い出し、再体験する。
 
〇表情が少なくなりボーッとしている。
 
〇現実とそうでないことの区別がつきにくくなる。
 
 
などがあります。他にもたくさんあり、大人にもあてはまります。
 
 
トラウマ反応の多くは、安心できる環境や、適切な心理的サポートがあれば、自然に回復していきます。
 
 
しかし、トラウマのタイプや重篤度によっては、心身のさまざまな病態(PTSD、解離性障害など)に発展することも少なくありません。このようなケースでは、医療を含む精神保健福祉面の支援が必要となります。
 
 
この記事でのトラウマについての確認はここまでにしますが、より詳しく知りたい人は、国立医療センター 『子どものトラウマ診療ガイドライン』をご覧になってください。
 
 

なぜ「トラウマは存在しない」となるのか?

トラウマについてきちんと理解できたので、いよいよ、アドラー心理学が「トラウマは存在しない」とする理由について理解していきます。
 
 
NHKの『100分で名著』で放送されていたものがわかりやすかったので、それをマンガにしてみました。御覧ください。
 
 

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後半部分は、番組では語られてなかったところを、書籍から付け足してありますが、アドラー心理学が「トラウマは存在しない」とした理由は、
 
 
そもそもトラウマなんてものはないんだ。過去の出来事にトラウマという意味付けをすることで、トラウマになってしまうんだ。
 
 
ということと、
 
 
過去にどんな経験をしていたとしても、過去と関わりなく、その後の人生は歩んでいけるはずなので、過去に意味付けをする事自体がナンセンスだ。
 
 
という考え方にあったということがわかりました。
 
 
ちなみに、アドラーは、「特定の経験を将来の人生のための基礎と考える時、おそらく、何らかの過ちをしているのである。」と述べています。
 
 
さっきのマンガにあてはめると、
 
 

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ということになります。
 
 
「特定の過去の経験がこれからの人生を決めていると考えること」は、特定の過去の経験に意味付けをすることに他なりません。
 
 
特定の過去の経験に意味付けをすることは、過ちでもあるわけです。

 

「トラウマは存在しない」理由の根源は目的論にあり!

上のマンガにも「目的から考える」という言葉が出てきていますが、アドラー心理学は目的論を主張します。この目的論の視点だからこそ、「トラウマは存在しない」と言えることができるのです。
 
 
目的論は「自分がどうありたいか、どうしたいかという目的が先にあって、それに向かって行動していくことで自分の人生を作っていくんだ」ということ、そして、「未来は自分が決めていけるんだ」という考え方です。下図参照。
 
 

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図を見て頂いてわかるように、目的論で人生を歩んでいっている場合は、過去の経験や出来事は関係してきません。
 
 
過去の経験や出来事に意味付けをすることもありませんので、「トラウマは存在しない」ということになります。
 
 
一方で、「現在のわたし[結果]は、過去の出来事[原因]によって規定される」という考え方が、原因論です。
 
 
原因論で人生を考えると、
 
 
「今の私が不幸なのは、過去のトラウマのせいだ」
 
 
というように、特定の過去の経験によって、その人の人生が決定されてしまうわけです。
 
 
アドラー心理学がこの原因論に反論しているということは、ここまで書いてきたプロセスでおわかり頂けていると思います。
 
 

それでもトラウマはある!

ここまでで、アドラー心理学が【トラウマは存在しない】とする理由については理解ができました。
 
 
それでも、やっぱりトラウマはあるのです。
 
 
まずは、精神医学の用語としてのトラウマ。トラウマという言葉があることでお医者さんが診断しやすくなります。
 
 
最初にトラウマについて確認した通り、トラウマといっても、個人個人できっかけとなる出来事は違うし、反応も様々です。
 
 
だから、「個人が持っている対処法では、対処することができないような圧倒的な体験をすることによって被る、著しい心理的ストレス(心的外傷)のこと」という定義に該当するものをトラウマと診断できることは、すぐに治療計画を立てるように動くこともできるし、理にかなっているのだと思います。
 
 
また、自動的に記憶に強く刻み込まれることにより、本人の意図に反してストレス障害を引き起こし、専門家による治療が必要な病態(PTSDや解離性障害など)へ発展するトラウマもあります。
 
 
僕が乳児院で働いている時に学んでいたのは、この類のトラウマです。
 
 
この、医学用語としてのトラウマと、治療が必要な病態へ発展するトラウマは、アドラーが「存在しない」といっている過去の経験の意味付けとしてのトラウマとは、別ものだと僕は考えています。
 
 

「トラウマは存在しない」の考えがあるからこそ治療ができるのでは?

ここは、僕の考えたことになります。
 
 
先に、 「専門家による治療が必要な病態(PTSDや解離性障害など)へ発展するトラウマ」は、アドラー心理学の「過去の経験に意味付けされたトラウマ」とは別のものという認識だと述べました。
 
 
しかし、共通する部分はあります。それは、どちらも「そもそもはじめから存在していない」ということです。
 
 
専門家による治療が必要な病態へ発展するトラウマも、最初は心に大きな衝撃を与える出来事であったに過ぎません。その後、なんらかの心身への影響が出て、お医者さんが診た結果、トラウマだということになります。
 
 
そうすると、「そもそもはじめから存在していないものが、どのようなプロセスを経て専門家による治療が必要な病態まで発展していったのだろうか。」と考えることができます。
 
 
認知行動療法や対人関係療法、ゲシュタルト療法など、トラウマ治療に効果的だと言われている療法は、このプロセスに目をつけていきます。
 
 
「トラウマははじめから存在していない」という前提がなければ、プロセスに治療のヒントを見出すことができず、治療法を確立していくことは不可能だったのではないかと思います。
 
 

感想

今回は、アドラー心理学の代表的な言葉として世間に知られている「トラウマは存在しない」について、その理由を探して旅をしてきました。
 
 
この記事を書き終えることで、僕の中にあった「トラウマは有るのか無いのかどっちやねん!」という問題が、「トラウマはアドラーの目的論では存在しないが、医学用語や治療が必要なものとしては存在する」ということで決着がついたので、スッキリしました。
 
 
また、アドラーの目的論の「自分の人生は自分で選んで決めていける」という言葉は、勇気をくれるなぁと改めて感じました。
 
 
もちろん、何もかにもが自分の思い通りになるわけではないですが、今この瞬間から、どんな小さいことでも主体性をもってやっていくことで、自分の人生を自ら作っているという実感を味わうことができるのではと思います。
 
 
実はこの記事は、一度完成させたものの、アドラー心理学が「トラウマは存在しない」とする理由をきちんと伝えられていないと判断して、1から書き直しました。
 
 
書き直すにあたっては、僕と同じはてなブロガーで、いつも楽しく読ませて頂いている志田恵さんのブログ『すごい人たちの話の構成を参考にさせていただきました。
 
 
おかげで、この記事で伝えたかったことが、よりわかりやすく伝わったのではないかと思います。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。
 
 

引用・参考文献

岸見一郎 著 『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』

 

岸見一郎 著 『アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために (ベスト新書)』

 

岸見一郎 著 『アドラー心理学 シンプルな幸福論 (ベスト新書)』

 

アルフレッド・アドラー 著  岸見一郎 訳『人生の意味の心理学〈上〉―アドラー・セレクション』

 

向後千春 著 『人生の迷いが消える アドラー心理学のススメ』

 

国立医療センター 『子どものトラウマ診療ガイドライン』